音楽療法と脳卒中リハビリ
音楽療法と脳卒中リハビリ
デルタレゾナンス(←リンク)は音響刺激に基づくものですから、広義の音楽療法と呼べるかも知れません。
当初、私自身 音楽療法について良いイメージを持っていませんでした。
とても非科学的な分野であると考えていたのです。
しかし、自らが脳卒中で身体が動かなくなる経験をし、さらに以下の研究論文を読んでからは 180度その見方が変わりました。
この研究は2008年2月にヘルシンキ大学の研究チームにより発表されたものです。
しかも、権威のあるBrain誌に掲載されています。
次のような内容です。
中大脳動脈という、脳の両側に血液を供給している血管由来の障害で脳卒中になった患者60名について、
20名ずつ次の3つのグループにランダムに分け、脳卒中後6ヶ月までの回復程度を比較検証しています。
(聴覚野は脳の両側にあるので、効果が顕著に現れることを期待して中大脳動脈由来の脳卒中患者を選んでいます。)
グループの内訳
1.好みの音楽を1日に1~2時間聴くグループ
2.物語を朗読するオーディオブックを1日に1~2時間聴くグループ
3.上記いずれの音響刺激も与えないグループ
この音響刺激実験は、脳卒中の1週間後から、2ヶ月間継続されました。
そして、
発症後3ヶ月目と6ヶ月目に、認知機能と気分を測るテストを行い、結果を比較しています。
その結果、
音楽を聴いたグループでは、言語記憶と集中力が、著しく高いスコアを記録しました。(図1)
また、抑うつ気分や、混乱の度合いが、音楽グループではとても低くなることが分かりました。(図2)
画像をクリックすると詳細をご覧いただけます。
図1:3ヵ月後と6ヵ月後の認知機能の回復程度
黒丸破線が音楽グループ
BLは発症1週間後の時点
3m:3ヵ月後、 6m:6ヵ月後 を示す。
特に、
言語記憶のスコアが3ヵ月後の時点で最大になっていることがわかります。
集中力についても音楽グループが他のグループを大きく上回るスコアを記録しています。
画像をクリックすると詳細をご覧いただけます。
図2:脳卒中後の気分の変化の度合いについて
抑うつと混乱の程度が、音楽グループで著しく低くなっています。
著者は、
・音楽刺激に曝すことで胎生期の脳神経の発生が促されることが過去の動物実験により明らかにされていること、
および
・音楽刺激の及ぼす神経ネットワークが脳の広範に及ぶこと
などから推察して、
この実験での音楽刺激による認知機能の著しい改善と感情の落ち込み防止効果は、
音楽刺激が回復期にある脳の可塑性を促し、構造的な変化をも引き起こした可能性もある、
と述べています。
そして最後に次のように結んでいます。
『ほとんどの脳卒中患者は1日の7割以上の時間を、
治療を受けるわけでもなく、室内で刺激のない状態で過ごしています。
脳の可塑性の観点から見ると、この時間はもったいない。
この空いた時間に、特に脳卒中の早期に音楽を聴かせることは、
他のリハビリの邪魔にもならず、
費用の面からも簡単に実行することができて、
認知機能の改善や感情の落ち込みを防ぐことができるのですから、
是非やってみる価値があると思います。』
この研究を知ってとても勇気付けられました。
なぜなら、
"壊死したはずの脳組織があたかも復活しているように見える"
という私自身の体験を、奇跡や偶然という言葉を用いることなく説明することができるかも知れないからです。
また、
通常の音楽刺激に比べ、バイノウラルビート刺激はより高いリラクゼーション効果が
期待できることが別の研究によっても明らかになっています。
ということは、
脳卒中の回復にも音楽刺激のそれ以上に効果を期待することができる、とは考えられないでしょうか。